December 18 Friday 2020

表現者たれ

先日、大学の講義でゲストスピーカーを務める機会をいただきました。Sunnyさんとトレーニングを始めてから、魅せるという言葉をよく使うようになりましたが、講義のなかでも”選手として魅せる”という内容にも少し触れたところ、興味深い感想を書いてくれた学生さんがいました。彼女が言うには”スポーツが観客主体のものとなり、勝ち負け以外を注目するような一種のエンターテイメント的になってしまうと問題になる”という一面から、選手が見せるということを意識してプレーすることには違和感を抱いたとのこと。彼女の文面にとても納得し、私自身また考えるきっかけをもらえたので、私なりの考えをまとめてみようと思います。

まずはじめに、スポーツの勝ち負け以外の部分のみが注目されるということは問題ですが、どの立場で考えるかによっては、勝敗に左右されない思考は必要だと思います。例えば、マーケティングの人間が勝ち負けに左右される戦術をとってしまうと、勝てないクラブは勝てるクラブに差をつけられていく一方になります。勝敗以外の部分がそのクラブまたは選手が持つストーリーなのか、関わる人たちに提供する体験の中身なのか、”真似したい”と思わせるようなスタイリッシュさなのか。あり方は様々かと思いますが、各クラブが自己分析のうえで戦術を練っていくわけです。

では現場の人間、選手やコーチングスタッフなど、直接勝敗に関わる人たちはどうなのか。私が思うに、”見られている”ことに意識を捉われ過ぎ、その結果、ファン・サポーターが求める姿に寄せようとしてしまうことは問題ですが、”見せたい自身”をコントロールできるということは、むしろその人の武器になると考えています。

そもそも”魅せる/見せる”ということはどういうことか。プロクラブではないとはいえ、観客のみなさんからお金をいただいてプレーしている立場として、見た目なども気をつける必要はありますが、一番はパフォーマンスを通していかに自身を表現するのかということだと思っています。選手のパフォーマンスには、その人の性格であったり、生き様のようなものが映し出されるもので、上手い下手というものを超えて、そういう部分に人は心を掴まれるのではないでしょうか。

うまくいっているチームの選手たちというのは、うるさいくらいに雄弁にプレーで語りかけてきます。逆にチームとしても成績がでていないときなどは、ピッチに立っている選手たちですら、チームの顔が見えていないものです。今シーズンのスフィーダで言えば、特にリーグ第17節、18節からの選手たちは、いい意味で耳をふさいでしまいそうなくらいに賑やかでした。(よく喋るという賑やかさも含めた両方の意味で。笑)”ここにいるぞ”と訴えかけてくるかのように、自信を持って役割を果たす姿をみて、まだ若い彼女たちに頼もしささえ覚えた方もいるかと思います。そのなかで耳をふさいでしまうのか、自分も負けじと声を張り上げようとするのかというところで、選手としてのこれからにも繋がるのかと。

声を張るには自分の価値観もきちんと持ったうえで、今現在の自身を客観的に評価するということが大切で、これを私は自分のものさしで測るとよく表現しています。これができる選手はチーム状況に流されしまうことも少なく、決断を迫られたときも冷静に自身のゴールから逆算した道を選べると思います。今年はコロナ禍というイレギュラーな環境下で、嫌でも自身と向き合わざるを得ない時間が膨大にできました。そのときの時間をどのように過ごしたか、またはどう今後に活かしていくのかということが、来年以降に大きな差として現れるはずです。

話が逸れてしまいましたが、私にとっての魅せるとは、自分のものさしで測ることで日々自分と向き合い研鑽を重ねるうえで、ピッチに立ったら思いっきり自分という人間を表現することであり、その過程で客観的思考を忘れることがなければ、それはチームとしての結果に十分貢献できるものだと考えます。ピッチ外での取り組みによってより広い層の人たちにリーチし、実際にスタジアムに来てみたら、うるさいくらいに語りかけてくる選手たちのパフォーマンスに心を掴まれる。そういうチームが私の理想であり、それを実現していくためにも、まずはこのオフを有意義に使っていきたいと思います。

最後に、来年はいよいよ日本初の女子プロサッカーリーグが開幕します。いままでとは違い、クラブもよりストレートな表現を選び、そのなかでも選手たちは自己を保って、自身がもつ最高のパフォーマンスを求められる環境になってきます。その環境下で、選手たちがどのような想いを持って自身を表現し、そしてそれらをクラブ側がどのようにファン・サポーター側へと届けるのか。そういった点に注目してみても、またおもしろいのかなと思います。

Published on Dec. 18, 2020 by Serina Kashimoto #95