May 01 Friday 2020

アマチュアのプロ意識

アメリカの大学スポーツはプロスポーツだと言う人もいる。確かに、奨学金をフルでもらっていた私はプロとしてプレーしている意識で生活していたし、環境も本当に恵まれていた。しかし、実際にプロスポーツを観戦にいくと、やはり学生スポーツはプロスポーツの持つ空気感とは異なるように感じた。スポーツマーケティングのクラスでNBAクラブのIndiana Pacersの試合観戦に招待されたことがある。毎試合チケットが完売するButlerでのバスケの試合でも十分にすごいと感じていたが、Pacersの試合は次元が違った。タイムアウトなど、少しでも時間があればパフォーマンスによるエンターテイメントをどんどんぶっこんでくる。照明がぱっと切りかわり色とりどりのスポットライトが交錯するとともに、場面もころころ変わっていく。その衝撃が強すぎて、試合の内容が一切頭に入ってこなかった。

at pacers game

対して、Butlerでのハーフタイムショーなどは雰囲気ががらっと変わる。プロさながらの試合展開を繰り広げたかと思えば、ハーフタイムになると小さな女の子たちで構成された地元のダンスチームが登場してパフォーマンスが始まったり、前学期の成績が優秀だった学生アスリートの顕彰の場となったり。私たち女子サッカーチームがカンファレンス優勝してNCAAトーナメント進出を決めた際も、コートに上がってたくさんの人たちに祝福してもらった。エンターテイメントがゼロではないが、Pacersと比べてその比率がさがる分、参加者が輝ける場を提供することで、地域や人との繋がりを深めたり、前回の記事で書いたようなスポーツデザインに繋げているという印象をうける。

また驚いたことの一つとして、Butlerのバスケットコートやサッカーフィールドは一般の人に向けても常時開放されていることだ。(授業やトレーニングが行われているときを除く) 雪が積もった日には、フィールドのすぐ横の傾斜に近所の子どもたちがそりすべりをしに来て、一人自主練をしていたところに後ろから突っ込まれたこともあった。(笑) またサッカーフィールドでは、毎週日曜の夕方に近所の人が集まってきてサッカーを楽しむ。”Sunday Family Soccer Tradition”と呼ばれているこの習慣はもう10年以上も続いているものらしく、参加している人たちは徐々にButlerが”自分たちのホーム”というような感覚を覚えていくみたいだ。実際、私たちの試合もよく応援しにきてくれて、少しずつ “Go Serina !” という声が増えていったのは素直に嬉しかった。

w: bill
“Sunday Family Soccer Tradition”を始めたBillさんと一緒に

w: allison

エンターテイメントという面ではプロスポーツほどではないかもしれないが、だからといって自分たちが常に見られている側の存在であるという意識を欠かすことはない。例えばソーシャルメディアの利用方法における注意や禁止事項がNCAAによって定められており、それぞれの学校でシーズンが始まる前に指導を受ける。また、私のチームはプレシーズンの間にいくつものミーティングの機会が設けられ、そのなかで適切なメディアへの受け答え方やファンとの接し方などについて話し合い、何度もシュミレーションを重ねる。また学校の夏休みに幼稚園から小学生くらいの子どもたちが200人くらい集まって1週間ほどサッカーキャンプが何回か行われるが、そのうちの数回の参加者は女の子のみに限定され、そのキャンプのために特別に作成された動画を子どもたちにみせる。子どもたちに夢を持ってもらうことを
テーマとし、その夢の例として現役選手たちのプレー映像などを使う。以下の動画は実際に監督に頼まれて作成し、キャンプ中のランチタイムに上映したもの。朝から夕方まで1週間毎日ずっと過ごす中で、子どもたちにとって一緒に遊んでくれる、または面倒をみてくれるだけのお姉さんで終わってしまっては意味がない。要所要所で選手としての顔をみせるための選出や、それぞれの選手に自覚を持たせることなどは強く意識していたように思う。

BWSC #dreambiglittlegirl

Butlerのスポーツのあり方はやはりプロクラブのそれとは異なる。しかし、そのなかでも自分たちはアマチュアだから、学生スポーツだからというような姿勢を悪い意味で感じさせるようなプロモーションはやらないし、選手たちの意識を高めていくための行動も欠かさない。アマチュアスポーツがきらきらしたものであり続けるには、チームとしての発信であったり、一人一人の日々の過ごし方からであったりと、自分たちは見られている側の存在であるという意識を持つことは全てではないとしても、必要不可欠な一因であるように思う。

Published on May. 01, 2020 by Serina Kashimoto #84